§5 東ヨーロッパ北部
@ポーランド Poland
 ポーランドといえば楽聖ショパンの出身地であるが、彼の残した楽曲にはマズルカ、ポロネーズ、クラコビアク、クヤビアクなど舞踊曲が多い。そこからも分かるようにポーランドには多くの民族舞踊が残っているが、そのほとんどがカップル・ダンスである。
Aウクライナ Ukraine
 ウクライナは旧ソ連南西部の平原地帯で、民族舞踊にはポーリャンカ Polyanka などの明るく活発なカップル・ダンスが多い。有名なコサック・ダンスはここウクライナとロシアのもので、激しいカップル・ダンスホパック Gopak の中でも踊られる。また同じコサックの踊りにバンドゥラ・コザチョーク Bandura Kozachok があるが、これは演劇的性格が強く、純粋な民族舞踊とは言えない面もある。なお、いずれも資料は完成しなかった。
Bロシア Russia
 ロシアの民族舞踊はペザント(農村)系とボール・ルーム(宮廷)系に大別される。ペザント系が本来の純粋な民族舞踊であり、激しく勇壮な踊りが展開される。プリシャトカPrisyadka と呼ばれるソロのフィギュアをパートナーの前で披露するのがひとつの特徴となっている。資料を完成させることのできなかったロシアの踊りのうちペザント系のものは以下のものである。アルカン Arkan はカップル・ダンスではなく、ロシアには珍しい男性舞踊である。しかし、男性のプリシャトカだけを抜き出した踊りと考えればさほど異色のものでもない。カマリンスカヤ Kamarinskaya はロシアの代表的な民族舞踊のひとつで、同じ名前でもさまざまな踊りがあり、中には3拍子系のものもあるという。オルロフスカヤ Orlovskaya は中央ロシア台地のオリョール Orel の踊りで、やはり男女のプリシャトカが随所にちりばめられている。ロシアン・ペザント・ダンス Russian peasant dance はその名の通りロシアの農民の踊りで、代表的なペザント系の踊りのひとつである。ヤブロチコ Yablochko とは「小さなリンゴ」のことで、やや暗めの音楽にのってやはり男女がプリシャトカを繰り返す。
 ボール・ルーム系はその名前から一見、民族舞踊ではないのではないかと思われそうだが、そうではない。庶民が宮廷の踊りをまねて踊ったものがボール・ルーム系の踊りなのであり、これもまた民族舞踊なのである。したがって、洗練された優雅な動きの中にも土臭さが残っているのが特徴である。資料を完成させることのできなかったボール・ルーム系の踊りとしてはアレクサンドロフスキー Aleksandrovsky がある。これは優雅なワルツで、皇帝アレクサンドル2世を称えたものといわれているが、本当のところは分からない。
Cラトビア Latvia
 ラトビアはバルト三国の一つであるが、その優雅で荘重な民族舞踊には北欧諸国やポーランドとの類似が見られる。なお、資料は完成しなかったがラトビアン・ペザント・ダンス Latvian peasant dance はここの踊りで、マズルカの一種と思われる。
© 1999 東京大学民族舞踊研究会